メンフィスのスタックスの歌手で王様だったのは生え抜きのオーティス・レディングでしたが、実際に大きなヒットを出していたのはアトランティックから派遣されていたサム＆デイヴでした。 Hold On, I'm Comin'、When Something is Wrong with My Baby、Soul Man、I Thank You (「ホールド・オン」、「僕のベイビーに何か？」、「ソウル・マン」、「アイ・サンキュー」)などなど、ゴスペル由来の迫力ある歌いっぷりと掛け合いはデュオとしては唯一無比のモノがありました。私も昔図書館でオーティスだけでなくサム＆デイヴのアルバムを見つけて借りたりして、その当時のアルバムのジャケットを見て楽しんでいました。「ベスト・オブ・サム＆デイヴ」で彼等の主な代表曲が聞けるのですが、彼等の曲の多くを作曲しプロデュースしたのがアイザック・ヘイズとデヴィッド・ポーターです。
元々はそれぞれドゥー・ワップのグループを組んでコンテストで競い合ったり他所のレーベルから曲を出したりしていて、ヘイズの方はキーボードなどの腕、そしてポーターは作詞作曲の腕を見込まれてスタックスに参加できたということです。それから二人は作曲チームを組みます。スタックスを長年取材してきたロブ・ボウマンの本「スタックス・レコード物語」で読んだデヴィッド・ポーターのインタビューから察するに、ヘイズの方は主に作曲と演奏面の指揮をとり、ポーターは主に歌詞と歌唱指導を担当していたようです。演奏はブッカー・T&ジ・MGズ、メンフィス・ホーンズの繰り出すメンフィス独特のゆったりしていて締まった心地よいノリで、歌手は感情をそのまま吐き出すような熱のこもった歌い方なのは同じですが、他のスタックスの曲と比べてヘイズ＝ポーターの作曲が特徴的なのは、メロディーをつないで曲の展開に躍動感をつけたり、歌手各人がソロで歌う部分とあわせて歌う部分や掛け合いで歌う部分と組み合わせたりと変化をつけている点でしょう。ポーターによればモータウンのホランド＝ドジャー＝ホランドをかなり参考にしたという話だし、その一方で伝統的な霊歌を参考にした歌詞をつけたりとソウルらしさも発揮しています。スタックスのベストの決定版と言える"The Stax Story"には、サム＆デイヴ以外にも、かわいらしいカーラ・トーマスの B-A-B-Y と Let Me Be Good to You、物悲しいメイブル・ジョンの Your Good Thing (Is About to End) などのヘイズ＝ポーターの曲が聞けます。
ところが黄金の作曲チームと思われた二人に転機が訪れます。スタックスがアトランティックの配給契約を打ち切り、それに伴いサム＆デイヴがアトランティックに戻ってしまったのです。その直後は新人アーティストのプロデュースをしていたのですが、アイザック・ヘイズが自ら歌手として成功をおさめ忙しくなったのでチームは自然消滅することとなりました。デヴィッド・ポーターはかなり落ち込んだもののロニー・ウィリアムスと組んで作曲活動を始めるのですが、以前の成功は望めませんでした。歌手としてのデヴィッド・ポーターはというと、まず"The Stax Story"では'65年の Can't See You When I Want to という曲で歌声を聞けます。味はあるのですが線が細い印象は拭えず、スタックスのソウルフルな歌い手の中では霞んでしまいます。アイザック・ヘイズのようなセクシーな低音の声といったウリもなくその点が残念です。"Wonderful"というアイザック・ヘイズのレア集ではポーターとのデュエットで Ain't That Loving You (For More Reasons Than One)、Baby I'm-A Want You が収録されています。70年代初期のファンキーさも加わった往年のサム＆デイヴを思い出させる内容で二人のつかの間の再会といった趣です。ヘイズとポーターは時々地元のクラブでサム＆デイヴの曲を歌ったりして喝采を受けていたりしていたそうで、その様子が目に浮かびます。
またポーターはアルバムを3枚出していて、"Victim of The Joke?--An Opera"がCDで唯一入手できます。歌の幕間で他人の恋人を愛してしまった男の物語が劇として語られるというなかなか意欲的で異色な内容となっています。曲調は女性コーラスやストリングスも入ったポップなソウルでサム＆デイヴの時の曲調とは様変わりです。アマゾン・コムのレビューを読むとこのアルバムについてでなく他の2枚のアルバムの再発を求める声が多く見受けられるのは皮肉なことです。アイデアはいろいろ浮かぶけれどもそれが実際に他人に受けいれられず空振りに終わることが殆どで、デヴィッド・ポーターのソロ活動もそういうことだったのでしょう。かといって昔の良かった時代に戻ることはできません。売れている人の成功譚ばかりでは分からない側面が見ることができるということでは興味深いものはあります。(2005.03.16)(2006.11.28)