この人こそ文字通りの「バッタもん」でしょう。1960年にチャビー・チェッカーが大ヒットさせた「ツイスト」は、あらゆる意味で象徴的な出来事でした。そのもたらしたものとは、まずこの曲を境に流行の踊り方や新しい踊り方とその名前をタイトルにしたり関連づけた曲をセットにして商売することがヒット曲作りのパターンの一つになったこと(サム・クックの Twistin' the Night Away、ルーファス・トーマスの Walking the Dog、Do the Funky Chicken、スモーキー・ロビンソンの Mickey's Monkey、ジェイムス・ブラウンのMother Popcorn、踊りは流行らなかったアーチ−・ベルの Tighten Up、など)、そしてテレビ番組などで白人の10代の少年少女が無邪気に踊る中で黒人がニコニコしながら歌い踊るといったような固定観念が定着したことでしょう。
もともと「ロックンロール」は男女がコトをいたす事の隠語でした。「ツイスト」の元歌のハンク・バラードの"Let'em Roll" や "Sexy Ways"の全体を通したベスト盤でも聞けるように、意味深でＨな曲(Work with Me Annie、Sexy Way など)が1950年代中期のR&Bのリスナーの好みで、The Twist の歌詞の内容もその路線の延長でした。ところが「アメリカン・バンドスタンド」というテレビ番組を仕切っていたディック・クラークの奥さんが、歌のうまい黒人の青年にチャビー・チェッカーと名乗らせてデビューさせ、「ツイスト」をカバーさせてテレビで「ツイスト」という踊りを流行るように仕掛けたことから状況は一変しました。本家のハンク・バラードまで Let's Go, Let's Go, Let's Go などのとにかく踊れる曲を次々と出すことになるのですが、それでもリズムのタメ具合とかボーカルのコブシ具合は黒人のR&Bでなければ出ないものでした。
ところでチャビー・チェッカーはフィラデルフィアのカメオ・パークウェイというレコード会社にいたのですが、その当時の音源は公式には未だにCD化されていません。音質は悪くてもその当時の熱気と勢いがある最初の録音の方が再録音よりも優れていることが殆どなので、権利を持っている人のどういう気紛れだか知りませんが、いい加減再発してほしいものです。そういう事情で自分がはじめて「ツイスト」をCDで聴けたのは、高田馬場の駅前で売っていたエールディスクの「リズム＆ブルース」という廉価盤に入っている再録音のものでした。その後買った"The Very Best of The K-Tel Recordings"というベスト盤は1970年代前半に再録音したものを集めたもので、全盛期をしのぶ縁(よすが)であります。「ツイスト」は元歌をそのままコピーしただけだから逆の意味で荒々しさとかが残っているのですが、その他のツイストソングは毒気や色気がなく「洗練」されています。元は「テキーラ」で有名なチャンプスのインストの曲に歌詞をつけた Limbo Rock は目先を変えて陽気なラテンだし、ヒューイ・スミスが元歌の Birdland はニュ−・オーリンズのもっさりしたリズムのかけらもないし、Pony Time、The Hucklebuck、The Fly とツイストの二匹目のどじょうを狙ったものは「ツイスト」を水で割ったようなものです。だけどそういうものを嘆く自分みたいなマニア以外にはゴキゲンな曲で結構なのでしょう。これらの曲で青春を送った人たちにとっては気恥ずかしくも懐かしくて身に染み付いているもので、我が身を振り返ればそういう良い悪いを超えた思い出は否定できないのです。
上の文章を書いた後、事情が変わってきました。"Cameo Parkway 1957-1967"という4枚組のボックス・セットで、ようやくカメオ・パークウェイの音源が公式にCD化されたのです。ボビー・ライデル、ディー・ディー・シャープといった人たちの御機嫌でお気楽なヒット曲に加えて、？＆ザ・ミステリアンズの 96 Tears やタイムスによる So Much in Love の元歌などなど盛り沢山の内容です。チャビー・チェッカーの曲はというと、学校の宿題として「メリーさんの羊」をファッツ・ドミノやコースターズやエルヴィスが歌うという設定で物まねをする The Class に加えて、彼の代表曲が収録されています。これらを聴くと後のケーテル録音はアレンジから歌い方までカメオ・パークウェイの録音を再現しようとしていたのが分かり、これはこれで涙ぐましいものがあります。近いうちにチャビー・チェッカーのカメオ・パークウェイ録音の編集盤が出ることでしょうから、個人的にも楽しみではあります。
そして、とうとう出ましたよ。"1959-1963"ではじめて聞く Toot なんかはロイヤル・ティーンズの Short Shorts を思い出させたり、ビーチ・ボーイズとツイストを組み合わせたというアイデアが泣ける Surf Party などバッタもんの香りがプンプンします。Hooka Tooka、Loddy Lo や Hey, Bubba Needle といったフォーク路線の曲もあったりしますが、やはりチャビー・チェッカーと言えば「ツイスト」で、ライナー・ノーツにある「ツイスト人形」「ツイスト宝石」「ツイスト靴」「ツイストダンスキット」といった商品はいったいどんなものだったか興味がそそられます。(2004.07.19)(2005.08.07)(2005.11.13)